「羊をめぐる冒険」の翻訳(120)
2 羊博士登場 (4)そしてあとの二日、僕はホテルの部屋で電話を待った。電話はその日のうちに三本かかってきた。一本は「鼠とは何を意味するのか?」という一市民からの問いあわせだった。
「友だちのあだ名です」と僕は答えた。
彼は満足して電話を切った。
もう一本はからかいの電話だった。
「ちゅうちゅう」と電話の相手は言った。「ちゅうちゅう」
僕は電話を切った。まったく都会というのは奇妙なところだ。
あと一本はおそろしく細い声の女からの電話だった。
「私はみんなに鼠って呼ばれているんです」と彼女は言った。遠く電線が風に揺られているような感じの声だった。
「わざわざ電話をしていただいて申しわけないけれど、僕の探しているのは男なんです」と僕は言った。
「たぶんそうだと思ってました」と彼女は言った。「でもとにかく、私も鼠って呼ばれてるんです。だから一応話した方がいいだろうと思って……」
「本当にありがとう」
「いえ、いいんです。その方はみつかりまして?」
「まだです」と僕は言った。「残念ながら」
「私だったら良かったんですけれど……。でも結局私じゃないし」
「そうですね。残念です」
彼女は黙っていた。あのあいだ僕は小指の先で耳の後ろを搔いた。
「本当はあなたとお話ししてみたかったんです」と彼女は言った。
「僕と?」
「よくわからないけど、今朝新聞広告を見てからずっと迷っていたんです。あなたに電話していいものかどうか。きっと御迷惑だろうと思ったものだから……」
「じゃあ、あなたは鼠と呼ばれているというのも嘘なんですね?」
「そうです」と彼女は言った。「誰も私のことを鼠なんて呼びません。そもそも友だちもいないんです。だから誰かと話してみたくって」
僕はため息をついた。「でもまあ、とにかくありがとう」
「ごめんなさい。北海道の方ですか?」
「東京です」と僕は言った。
「東京からお友だちを捜しにみえたんですね?」
「そのとおりです」
「お幾つくらいの方なんですか?」
「三十歳になったばかりです」
「あなたは?」
「あと二ヵ月で三十です」
「独身?」
「そうです」
「私は二十二なんです。年をとればいろんなことは楽になるのかしら?」
「どうかな」と僕は言った。「わからないな。楽になることもあるし、そうでもないこともあるし」
「食事でもしながらゆっくりお話しできるといいんだけれど」
「申しわけないけれど、ずっとここで電話を待ってなくちゃいけないもので」
「そうね」と彼女は言った。「いろいろごめんなさい」
「とにかく電話をくれてありがとう」
そして電話を切れた。
在登广告后的第二天里,我在宾馆的房间里等电话。在那一天时间里,来了三个电话。第一个电话是一个市民打来问:“老鼠是什么意思?”
“那是我朋友的一个别名。”我回答说。
他很满意地掛了电话。
第二个电话是搔扰电话。
“哎、哎。”电话的对方发生怪音。“哎、哎。”
我掛了电话。这完全是所谓都会的中奇妙的所在。
第三个电话是一位细声细语的女人打来的电话。
“我被大家称为老鼠。”她说。那声音像是远处的电线被风吹摇动的感觉。
“让你特意还打来电话实在对不起。我正在寻找的老鼠是男的。”我说。
“原来是这样的。”她说。“可是,我也被叫做老鼠。可是好好交流一下不可以吗?”
“非常感谢。”
“不用谢,没什么关系。要找的那一位找到了吗?”
“还没有找到。”我说。“很遗憾。”
“若是我的话该是多好?可是并不是找我。”
“是的。很遗憾。”
她沉默了一会儿。这时我用小手指尖挠了挠耳的后面。
“很想和你谈谈。”她说。
“和我?”
“我很不明白,今天早上看了报纸广告后一直迷惑。和你打电话是好还是不好呢?我想会打搅你的?”
“这么说来,你被称为老鼠是假的了?”
“是的。”她说。“谁也不叫我老鼠。而且也没有什么朋友。所以见谁都想说话。”
我喘了一口气。“这个,也太感谢你了。”
“对不起,请问你是北海道的吗?”
“是东京的。”我说。
“从东京来是为了找朋友?
“是的。”
“请问他年龄多大了?”
“刚刚30岁。”
“你呢?”
“再过两个月30岁。”
“还单身吗?”
“是的。”
“我已经22岁了。年龄大了很多事情都很快乐吗?”
“在说什么?”我说。“我不明白。快乐的事是有的,不快乐的事也有。”
“比如吃饭的时候可以悠闲地说话。”
“实在对不起了,我在这里一直等电话。”
“好吧。”她说。“那对不起了。”
“毕竟你给我打电话了非常感谢。”
把电话掛了。
刊登广告也无所收获。